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ヘルスケア・アートに立つ。創造性の発揮×現場での潜在的なニーズがダンスとして表現されるとき

 

なごやヘルスケア・アート推進プロジェクトによる、高齢者施設でのアート企画の進捗です。

 

私の担当は、コンテンポラリーダンス企画。

昨日は、京都で活躍されているダンサーの池端美紀さんとダンス企画メンバー、運営事務局のスタッフの方々と事前打ち合わせでした。

 

全体の企画や舞台となる会場装飾もほぼ決まり、その空間に合わせた衣装の相談をしました。ひな祭りから「春」や「はじまり」をテーマとしていくことが決まり、会場に装花として使われる、桃、菜の花、スイートピーからヘッドドレスも制作。それに合わせて、鮮やかな桃色のワンピースも制作し、シルバーの着物帯をすることになりました。ひな祭りの和とコンテンポラリーな感性が、とても楽しみです!

 

振付の方向性や音響についてのイメージもすり合わせ。寝たきりや認知症の重度の方も多いことから高齢の入所さんの身体性も考慮しながら、施設のスタッフの方も楽しんでいただけるポイントにアート性を落とし込んでいく。アートは普段アートに触れていない方からすると、とても分かりにくく、敬遠されてしまう要素も孕んでいます。それをも考慮に入れながら、アートの自由さを確保しながら、誰にでも安心して受け取ってもらえるようなバランスを検討しました。さらには、こころと体への心地良い感覚を届けられるような工夫も。

 

「これまでその現場になかった創造性を発揮すること」と「現場での潜在的ニーズ」を掛け合わせるという、ヘルスケア・アートの醍醐味。ダンサーさんならではの動き・音・ビジュアルの組み合わせによる身体性へのアプローチがあり、企画のアートディレクションをさせてもらっている私には面白すぎます!まさに、その現場に漂う空気をダンスとして捉え、踊り表現するような取り組みです。

 

今回、私がこのコンテンポラリーダンスを企画・提案したきっかけがあります。

昨年、なごやヘルスケア・アート推進プロジェクトにおける「療養環境におけるアートの役割と可能性」シンポジウム講演より森口ゆたか先生からとても興味深い事例報告がありました。

 

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近畿大学医学部付属病院で、入院中の高齢患者さんのために、近畿大学舞台芸術専攻の学生による現代舞踊公演が行われました。若い女性が病院の中庭を舞台に、真っ赤なドレスを着て走り回るというもので、舞踊を鑑賞したあと、患者さんの目が活き活きし、興奮して観ている姿がありました。鑑賞後の感想も「若いころを思い出した」や「訳が分からないのに勝手に涙が出た」などの声があがりました。

神経内科の先生によると、ミラーニューロンという脳の神経細胞の働きがあり、「見ること」によって鏡のように患者さんたちの「神経が刺激された」との見解です。つまり、普段、高齢の入院患者さんは自分たちも周りの人たちもゆったり動いているのですが、この時、若い女性が赤いドレスを着て走り回るという普段目にすることがない動きを見るだけでも、脳が刺激され活性化したということでした。(近畿大学

森口ゆたか先生)

 

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ミラーニューロンとは、他者の行動を見ているだけで、他者の行動と同等の脳内の活動が行われている働きで、人の共感に関わる脳のネットワークシステムです。

この事例が私にはとても印象的で、ダンスという身体表現の可能性を強く感じたことが、今回の企画立案に繋がっています。つまり、身体の機能が低下している高齢の方々が、「自由に身体を解放したダンスを見るだけ」でも内面的な躍動を再び感じることができるのではないか…と。

今進めている名古屋の高齢者施設でのダンス企画でも、こうしたミラーニューロンの効果を考慮にいれながら、プロのダンサーさんと、ヘルスケア・アートという新しい地平でのダンスの創作と活用に挑戦しています。

 

今後も進捗をお伝えできればと思います。